
Bellwood Academy ロゴ物語|第1話「盾」

> 「このままで、いいんだろうか」
そう思いながらも、いつの間にか先送りにしてしまう問い。 僕にとって、それはキャリア後半の静かな付き添いのようなものでした。 大声ではないけれど、ふとした拍子に立ち止まらせる――そんな声。
グローバル企業の一員として、それなりのポジションと報酬。 生活にも困らず、外から見れば「安定した会社員人生」だったと思います。 けれど、心のどこかでずっと思っていました。 「自分は今、何を築いているんだろう」と。
そんな問いが、少しずつ濃くなっていったのは、あるプロジェクトの終盤でした。
それは、世界400社のIT基盤を統合するという、なかなかスケールの大きな仕事でした。 国も文化も言葉も異なるチームたちと連携しながら、ひとつの仕組みに整えていく。 壮大で、やりがいのあるプロジェクトです。
けれどその裏側で、僕の中には、じわじわと疲労のようなものがたまっていました。
明確な“事件”があったわけではありません。 ただ、何かが毎日の中で少しずつ摩耗していくような感覚。
言葉がかみ合わない。意図が通じない。 会議は時差の狭間を縫うように続き、 ようやくたどり着いた合意が、数日後にはなかったことになっていたりもする。
そうした小さなすれ違いの積み重ねが、 少しずつ、心の底に沈殿していくようでした。
そしてある日、静かに思ったのです。 「このまま続けていくのは、どこか自分を削ることになっていくのかもしれない」と。
そうして、60歳で会社を辞めるという決断をしました。
意外と、気持ちは静かでした。 ただ、だからこそ不安もありました。
年金までの5年、収入は? 家族は? 健康は? あらゆる問いが、ふいに押し寄せてきます。
でも、ふと気づいたこともありました。 「まったくの無防備ではないな」という感覚があったのです。
思えば、僕は少しずつ“準備していた”のかもしれません。
未来に向けて、ささやかな投資や勉強。 職業訓練校での新しい学び。 一人息子が無事に大学を卒業したことも、何かの節目として残りました。
けれど、あとから思うと、 いちばんの“準備”は、もっと長い時間をかけて、 知らず知らずのうちに積み上げていたものでした。
あのプロジェクトで、僕はずっと、 見えない言葉や文化のあいだを行き来しながら、 それでも「つながり」を手繰り寄せようとしていました。
単なるITの統合ではなく、 相手の背景に耳を澄まし、形にならない違和感をほぐしていく。 それは、誰の目にも見えにくい仕事でしたが、 今思えば、“構造を見つめ、関係性を結ぶ”という、僕の芯をつくる経験だったのだと思います。
会社を離れ、自分のこれからを考えるとき―― 僕を支えたのは、そうした“気づかぬうちに積み上がっていた経験”でした。
それは武器ではないけれど、 不安や迷いに真正面から向き合うための、確かな備え。
そう、それこそが、 > 僕自身が、いつの間にか手にしていた“盾”だったのだと思います。
だから、Bellwood Academyのロゴには、盾を描きました。
それは、危機をよけるための防具ではなく―― 何かを問い続けようとする人の背中を支える、静かな構造のかたち。
今、あなたが考えていること。 迷っていること。言語化できずに抱えているその輪郭のない思いも。 あとから振り返ったとき、きっと、それが“あなた自身の盾”になっているはずです。
🗣️ あなたにとっての「盾」は、何ですか?
よければ、教えてください。 あなたが歩いてきた道にも、すでにいくつもの“準備”が眠っているかもしれません。
(→ 第2話「本」へつづく)
▼この連載について
この連載は、「Bellwood Academy」のロゴに込められた思いを、自身の半生を振り返りながら紐解いていく、全五話の物語です。 [第一話:盾] [第二話:本] [第三話:蜂] [第四話:リボン] [第五話:飛び立つ蜂]